この男凶暴につき

 

 

人の心を読む事が好きだ。普段、周囲には良い人に見えて実は裏では酷い奴だったとか、見た目が怖い人だけど実は優しいとか、人の心理を読む事がたまらなく好きだ。ほとんどの人を読む事が出来る。が、一人だけどうしても読めない奴がいる。

 

「やはりわからないね」

 

魏の軍師賈ク文和は、卓に頭をのせながら読めない男を考えた。その男は同僚で年下の若者。先輩でもある。普段は優雅な振る舞いを見せ、遊び好きで戦好き。男には興味がないと言っていた。が、ある日・・・賈クに告白した。

 

『よければ付き合いませんか?

 

その時は冗談だろうと相手にしなかった。が、それからというもの毎日賈クに話しかける。行動も強制的に共にしている。時には屋敷にまで出向く程だ。

 

「俺は、魏では一番の嫌われ者だ、人の不幸を喜ぶのが好きな陰険で悪人面な奴だぞ。それなのに口説くなんて、さっぱりわからん」

 

心を読めない相手は曹操だけだと思っていた。が、他にもいるとは。

 

「調べた限りでは、男には興味がなく若い女に興味を持っている筈だが」

 

益々わからない。考えすぎて気がつけば、もう辺りが暗くなっている。

 

「ハッハハハ…参ったね」

 

渇いた笑いをし、また溜息をする。あの人の事を考えると他に集中出来ない。

 

「考えてもキリがない。ここは酒を飲んで寝るか」

 

立ち上がった時、扉を叩く音が聞こえる。思わず頭を抱える。誰か来たかすぐにわかった。ずっと、考えていたあの人だからだ。

 

「本っ当に、わからない人だ」

 

何者か聞かず、扉を開ける。

 

「遊郭の帰りに寄ったんですかね?郭嘉殿」

 

「違いますよ。執務の帰りに寄ったのです。貴方に会いにね」

 

爽やかな笑みを浮かべる郭嘉。大抵の女性はその爽やかな笑みに騙されて口説かれ落ちる。笑みの裏は違うのに。

 

「はいはい。そうですか」

 

「中に入れてくれますよね?」

 

「嫌と言ってもあんたは入るつもりでしょ。まっ、知ってると思いますが何もないトコですがどうぞ」

 

お茶は入れないと言ったようなものだ。それでも構わないとあがる郭嘉。

 

「何度来ても質素ですね」

 

部屋に案内され勝手に椅子に座る郭嘉。

 

「そりゃあどうも。俺は美術品とか興味がないのでね。戦が終わったらすぐに寝たくなる」

 

「戦しか興味がないのですか?」

 

「駆け引きが好きって、言った方が良いかな」

 

寝台に寝そべる賈ク。寝るから帰れと言っているようなものだ。

 

「私と同じですね」

 

寝そべる賈クの隣りに座り込み、クスッと笑む。

 

「私も好きですよ。駆け引き。戦以外に遊びもね」

 

「だから、俺を選んだのかい?悪趣味も程があるが」

 

「賈ク殿に対しては本気ですよ。毎日貴方を想っていますよ」

 

賈クの手の甲に触れる。随分大胆な嘘をつく。細い郭嘉の手を退ける。

 

「冗談を」

 

「本気ですよ。どうすれば貴方を落とせるか、どうすれば貴方が私を信じてくれるか考えていますよ」

 

「それも口説きだろ」

 

即否定する。郭嘉の言葉は全て偽り。抱く為ならどんな手を使う。だから信用できない。

「本気だからですよ」

 

「そうかい」

 

そっけない言葉で返す。それでも態度は変わらない。交われば反応が変わると見ている。

 

「やるならすぐ始めましょうか。やってすぐ寝てしまいたいのでね」

 

「冷たいですね。こんなに愛しているのに」

 

虫唾が走る言葉だ。だが、嫌だとは思わない。こいつの心を知る事が出来る機会なのだから。

 

「言葉は良いですから、はじめましょう」

 

誘っているように見えるが、早く済ませたいだけだ。冷めた感情に郭嘉は爽やかな笑みを浮かべながら、賈クを押し倒す。

 

本性を読めない。が、言える事はこいつは本当に俺を抱きたいようだ。笑っているが眼は獣のような目をしている。これで喰えると笑っているように見える。

 

「気持ち良くさせてあげますよ」

 

こんなおっさんのどこが良いのか理解が出来ない。が、悪くはない。この男の本質は凶暴な獣のように飢えている。それでも、嫌いじゃない。

 

押し倒されて、口付けをされ、身体を交わった。

 

 

あとがき
カクカクです。お互い遊びだと思っている感じです。

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