二人きり

 

「二人きりになってしまったな」

 兄弟で酒を交わす機会がなくなった。月日の流れもある。が、それだけではなかった。色々なモノがなくなっていた。天下を統べる夢、多くの家臣そして・・・弟達。

「本来ならば、我等より長生きする筈だったのにな」

「そうだな」

 二人には二人の弟がいた。優秀で自慢出来る弟でもあり、愛しい弟だ。身体を交わる程愛おしい弟。

「私が殺したようなモノだな」

 月を見ながら酒を飲む。老いたと思う。若ければ天下人に逆らっていただろう。

「そんな事はねぇ。時代が二人を殺したんだ」

 義弘が出来る精一杯の慰めの言葉。歳久は梅北の謀反の為に自害し、家久は病死とされているが毒殺された。二人が消えてから野心は消えていった。虚しい思いを抱いたまま老いていく。

「義弘、お前は私より先に死ぬな」

 ただ一人生き残っている弟に願った。義弘まで先立たれてしまったら私はどうなる。当主なのに心が折れてしまうと言えば呆れるだろう。

「兄貴、俺様は先に逝かねぇ」

「義弘」

「約束してやる。俺様は絶対に死なねぇ。兄貴を悲しませたくねぇからな」

 歳を老いても、兄を想う気持ちは変わらない。兄の為に生き、兄の為に死ぬ。そう決めたのだから。

「ありがとう、義弘」

 

二人きりになっても悲しくはない

 

「さぁ、飲むか」

 

暗くなればいなくなった弟達が呆れるだろうから

 

弟達の分まで生き続けよう

 

泰平の世で共に生き続ける

 

 

あとがき
弟達が亡くなった後の話です

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