ヒツヨウ

 

 

 幼い頃、兄貴は内気な性格で。言っちゃあ悪いが、とても大将を勤められるようには見えなかった。だから俺様は強くなって兄貴を支えようと決めた。兄貴を護る事が出来るのはこの俺様だ。俺様にとって兄貴は一番大事な奴だからだ。

「あ〜、暇だ」

 縁側で大の字になりながら青空を見上げる。戦以外は兄や弟の方が優れている。その為、滅多な事がない限り、政には関わらない。政に疎いという訳ではないが、呼ばれない限り参加はしない。

「あれから、何年経っているのだろうな」

 小さい子供から大きくなる。当たり前だが、どこか淋しくなった。

「最近、二人きりで過ごす時間が減ってきたような気がするなぁ」

 兄である義久が当主になってから会う暇がなかった。当主の責務は多忙である。それはわかっているが、兄を支える弟達や家臣達を見ると・・・

「俺様が護る必要なんてないよなぁ」

 武に関しては己より強い者は見当たらない。それでも己が兄を護る必要はなくなってきているような気がする。

「兄貴、強くなってきたしなぁ」

 幼い頃のような細く外見ではなく、今は体格も良くなり自ら先陣をきる頼りがある武将に成長した。誰かに護られるような男ではなくなった。

「俺様は御役御免かもしれねぇ」

 どこか虚しくなった。夜になったら気分転換に博打でもやりにいくか。暗くなっても仕方がない。

「俺様以外に頼りになる奴が増えてきたしな」

 空は青く晴れ晴れしているが、義弘の気分は激しい雨が降りそうな雲の様に暗かった。

「それだけ、天下が取れる可能性が高いって事だろうけどよ」

「何を一人でブツブツ言っている」

 ハッ、と振り向くと、気分が暗くなった張本人が覗き込むように義弘の顔を見下ろしていた。

「まだ、執務の最中だろうが」

「まぁ、そうだが少しは休憩したい」

 義弘の隣りに座る義久。拒まなかった。拒んでも居座るからだ。

「良い青空だ。義弘がのんびりと空を眺めたくなるのもわかる」

 義久も青空を見上げる。

「ずっと、働いてばかりでは身が持たん」

「当主がそんな事を言って良いのかよ?」

「当主とて人間だ。お前が硬い事を言うとは珍しい」

 本来なら逆だろうと、苦笑する兄。

「それもそうだな」

「やはり、お前がいると安心するな」

 空を眺める兄。

「お前がいなければ、重圧で押し潰されていた」

「重圧?」

 頷き、義弘の方へ視線を移す。

「そうだ。天下を取る重圧、皆に頼りにされる重圧だ。昔なら泣いていた。お前のお陰で今の私がいる」

「俺は何もしていないぜ」

「している。お前は私にとって太陽だ。私を照らしてくれる太陽」

 大げさ過ぎる例えだ。だが、悪くはないような気がする。

「だから、私の傍から離れるな。私はお前が必要なのだから」

 突然、兄に押し倒される。

「兄貴」

戸惑う弟。

「約束しろ。私を裏切らないと」

 この世の中、実の兄弟でも敵対し殺しあう。中には平然と裏切る兄弟もいる。義久は、弟がいつか裏切るかもしれないと思う時があるかもしれない。

「裏切る訳ねぇだろ。俺様はどんな事があっても兄貴の味方だ」

 他の奴が裏切ろうとも裏切らない。兄貴が俺を必要としているのならば。

「約束だからな」

 口付けをする。お互いの舌を絡めながら深く口付けをした。お互いが必要としている限り、裏切らない。お互いそう思った。陽がまだ強く光っていた。


あとがき
義久義弘です。お互い依存している感じです。

inserted by FC2 system