親と子反比例

 

「う〜む」

 自室で独り腕を組み考え込む島津義久。
 思いつめているようだ。

「なに一人で考え込んでんだよ、兄貴」

「義弘か」

 承諾なく隣りに座り込む弟。
 恋人のような関係である弟でもある為、文句はない。

「で、何を考えていたんだ?」

「娘とお前の息子の事だ」

「忠恒と亀寿かよ」

 忠恒は義弘の息子、亀寿姫は義久の娘。夫婦である。
 仲は悪い。親が勝手に決めた事なので当然と言えば当然だ。

「親同士はこんなに仲が良いのに」

 ゆっくりと近づき、義弘を抱き寄せる。

「何故、あの二人は仲が悪いのだろうな・・・」

 耳を軽く噛みながら囁く。

「それはなぁ」

 こんなところでやろうとしている。まだ昼間なのに。これは答えなければ抱かれそうだ。

「子と親は違うって事だろ。俺と兄貴は兄弟でかなり仲が良いけどよ、あいつ等は違うんだろ」

「そういうものだろうか」

「そうだって」
 
 まだ納得していないようだ。
娘の事になると態度が変わる。過保護なのだ。忠恒は亀寿をへたに扱えないのだろう。それも不仲の原因の一つかもしれない。

「あの子達も我々のように仲良くやって欲しいものだ」

 弟を強く抱き締める義久。

「骨肉の争いにはなって欲しくない」

「それは俺もそう思う」

 兄の前では『俺様』と言わない。兄の方が上だ。

「時が解決をしてくれるしかないという事か」

「おう。それしかない」

 納得するのに時間がかかりそうだ。

「お前の息子は我が娘を抱きたいと思わないのだろうか」

 二人はまだ関係を持っていない。お互い交わりたくないのだろう。子をまだ産んでいない。

「亀寿は可愛いからなぁ。見た目がお子様だから早いと思ったんだろ」

 本当は遊郭で遊女を抱いているとは言えない。へたをすれば斬りかかりそうだ。

「もう年頃だと思うがなぁ・・・そう思われているなら仕方がない」

 少しは娘を大事に思っているのだと、勘違いしてくれている。

「私はお前を今すぐ抱きたいのだがな、義弘」

「俺はこれから調練があるから後でだ」

 まるで子供を諭しているようだ。兄の方が真面目でしっかりしているのだが、性欲に関しては別のようだ。妾もいるから当然だが。

「仕方がないか」

 やっとわかってくれたようだ。内心ホッとしていたが、それは間違いだった。

「夜は存分に可愛がってやるからな」

 不適な笑み。言ったからはには必ず実行する。今日は寝れそうにない。嬉しいような悲しいような。

「本当に仕方がねぇな」

「そう言うな。嬉しいだろ」 

 膨れ面になる義弘。
全然嬉しくない。何年も抱かれ続けているとはいえ、朝になると腰が痛い。これは身体を鍛えているからだけで鍛えられるものではない。

「照れるな」

「照れてねぇ」

「私達はこんなに仲が良いのになぁ」

 早く仲良くなって欲しいものだ。と、溜息をつく兄。島津の君主ではなく、今の姿はただの親馬鹿にしか見えない。

「忠恒人形を作れば少しは仲良くなるだろうか」

 また始まった。亀寿がもっている動物のぬいぐるみみたいに作るつもりだろうか。

「そんな事をしたらそれを使ってサンドバックにしそうだろうがよ」

 きっと、その人形をサンドバックにして殴るだろう。

「そうか?」

「違いねぇ」

 この親馬鹿な兄に言える事は一つしかない。

「今はそっとしてやるしかねぇ。下手に親がでしゃばったら余計仲が悪くなるだろ」

「それはいかんな」

 やっとわかってくれたか。兄の手をゆっくりと剥がし、傍から離れる。

「だから、俺達は見ている事しか出来ねぇ。あいつ等から相談に来たら聞いてやろうぜ」

 あの二人の性格から来ないだろう。もしかすればずっと仲が悪いままのような気がする。

「じゃ、俺様は戻るわ」

「義弘」

 去ろうとした義弘を呼び止める。兄の方へ振り向く。

「夜は必ず私の部屋へ来るのだぞ」

 仕方ない兄だ。それでも嫌いになれない。義弘も好きだから。

「仕方ねぇな。行ってやる」

「待っているぞ」

 返事をせず、手を振り部屋から出ていく。

「私も仕事をするか」

 今日は早めに終わらそう。最愛なる弟を抱くのだから楽しみで仕方がない。笑みを浮かびながら書簡に眼を通した。

 

夜はたっぷりと可愛がる為に

 

子供同士と親同士では関係が違うのだ

あとがき
親馬鹿な義久です(笑)弟大好きで娘ラブです。

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