ゆったりまったり

 

 

 

何故、貴様がここにいる」

 越後には幾つか温泉が存在する。謙信は密かに湯に浸かり疲れを癒す。誰もが知っている訳ではない。知っている者は、側近である宇佐美定満と直江景綱のみである。なのに、何故か平然と湯に浸かる者が現れた。しかも、相手は敵対している者だ。

「我輩の情報網を甘く見ないでもらおうか」
 
 勝ち誇った笑みを浮かべながら近づく武田信玄。敵意がない。


「私用の為に忍びを使うか。忍びにとっては迷惑な事よ」

「まぁ、その分金を渡しているから逆に喜んでおる。お前の忍びはやらぬだろうな」

 逆に幼女を浚う忍びだからな、と付け加える。何も言えない。段蔵は命に反する事を行うが多い。幼女を浚った事も事実だ。

「で、何しに来た」

「お前に会いに来た、という理由だけではいかんか?」

我に会う為だとは不可思議な

「我が貴様を斬るかも知れぬぞ」

「出来ぬな」

 断言する。絶対斬られる事はないという自信が溢れている。

「何故だ」

「我輩との決着は戦で望んでいる。違うか?」

 見抜かれている。この男には何もかも見抜かれているようだ。

「当然だ。貴様をここで斬ったところで何も足しにもならぬ」

「我輩もだ」

 謙信の肩を掴み、己の方へ引き寄せる。

「戦以外ではこうして、仲良くしたいものよ」

「ふん」

 そっけない態度。だが、信玄は知っている。嫌いではないという事を。

「ならば、二人きりなのだからここでやるのも一興よ」

「図にのるな」
 信玄の頭に拳骨をした。手加減をせず本気だ。痛さに頭を撫でる信玄。

「痛っつ。本気でやらなくとも良いだろう」

 涙目で痛がる信玄。本当に痛いようだ。

「自業自得だ」

 岩に近づく謙信。上から桶と酒と杯を取り出す。

「おっ、酒か」

 桶に酒を入れる。湯に入らない為だ。

「いらぬなら、一人で飲む」

酒を取り出し、杯に注ぐ。

「いるに決まっておろう。もらおうか」

「仕方がない奴だ」
 
 酒が入っている杯を信玄に手渡した。



 今だけはゆったり、まったりでも良いだろう

 

心の中でそう呟いた。

 

 

あとがき
ほのぼのな玄謙です。謙信はツンデレだと思います。

inserted by FC2 system